
スープを長い時間かけて炊いたり、魚に包丁を入れたり、髪の流れを見ながらはさみを入れたりする仕事は、お店にとっては毎日のことです。けれども、インバウンドの方々にとっては、それ自体が日本へ来る目的になっています。観光庁の調査では、日本でいちばん満足した飲食にラーメンを選んだ人が19.7%いました。
この記事では、観光庁の「インバウンド消費動向調査」の数字で、外国の方が日本のお店の何に満足しているのかを確かめます。そのうえで、その価値が来る前の人に伝わっていない理由と、小さなお店が自分の技術を、外国の方に見える形にする手順をまとめました。
インバウンドの方々は、日本のお店の何に満足しているか
観光庁の「インバウンド消費動向調査」2025年の年次報告書では、日本で食べたもののうち、いちばん満足した飲食を1つ答えてもらっています。肉料理(32.5%)に続いて、ラーメン(19.7%)と寿司(13.7%)が上位に入りました。どちらも、専門のお店が職人の手で出している料理です。
満足した理由(複数回答)を見ると、どの料理も「美味しい」が9割を超えます。そのうえで、ラーメンでは24.0%、そば・うどんでは29.0%、その他の日本料理では34.9%の人が、「伝統的・日本独特である」ことを理由に挙げました。味に加えて、日本でしか出会えない作り方や食べ方にも満足していることが分かります。
買い物でも同じ傾向があります。いちばん満足した商品の理由として、化粧品・香水では62.4%、衣類では55.1%の人が「品質が良い」を選びました。民芸品・伝統工芸品では、「伝統的・日本独特である」が54.0%です。日本の仕事の丁寧さは、外国の方がお金を払う理由として、はっきり数字に出ています。インバウンドの方々がいまどのくらい来ていて、何にお金を使っているかは、インバウンド需要の記事にまとめました。
毎日の仕事が、体験として選ばれる理由

同じ調査では、日本滞在中にしたことと、その満足度も聞いています。「日本の日常生活体験」をした人のうち、97.2%が満足したと答えました。挙げられた体験の中で、いちばん高い割合です。「日本の歴史・伝統文化体験」も、した人の95.6%が満足しています。観光地の特別な催しに限らず、日本のふだんの暮らしや、昔から続く仕事に触れることに満足する人が多いということです。
東京都も、お店の技術を観光に生かす取り組みを支援しています。令和8年度に募集している「多様な体験型観光推進事業補助金」の案内には、「東京の美容室等の高い技術を新たな観光資源とする取組を支援します」と書かれています。ヘアカットやネイル、メイクを、外国の方向けの体験として出すための補助金です。美容室の技術そのものが、観光の目玉として扱われ始めています。美容室の方に向けた使い方は、この補助金の記事で詳しく書きました。
その価値が、来る前の人に伝わっていない理由

技術に価値があっても、来る前の人に伝わっていなければ、お店は選ばれません。伝わらない理由は、たいてい次のどれかです。
いちばん多いのは、お店の人にとって当たり前すぎて、技術として説明していないことでしょう。スープに何時間かけているか、魚をどう寝かせているか、シャンプーのときにどこを押しているか。毎日していることほど、わざわざ書こうとは思いません。メニューには料理名と値段だけが並び、ほかのお店と見分けがつかなくなります。
次に多いのは、説明が日本語にしかないことです。店内の貼り紙や日本語のホームページに書いてあっても、外国の方には読めません。さらに、作っているところの写真や動画がないお店も少なくありません。仕上がった料理の写真だけでは、どれだけ手間がかかっているかは伝わりません。
観光庁の同じ報告書では、出発前に役に立った旅行情報源として、SNSを挙げた人が43.3%、動画サイトが39.6%いました(全国籍・地域、複数回答)。外国の方は、来る前にSNSや動画でお店を見比べています。工程が見えず、言葉でも説明されていない技術は、見比べる材料に入りません。
お店の技術を、外国の方に伝わる形にする手順

技術を伝えるために、新しい設備や特別なメニューを用意する必要はありません。いま毎日している仕事を、写真と言葉と値段に置き換えるところから始めます。
よくある形
ほかのお店と見分けがつかない
伝わる形
なぜこのお店で、なぜこの値段なのかが、来る前に分かる
仕事の工程の見せ方
まず、仕上がりの前の工程を撮っておきます。スープを炊いている鍋や麺を上げるところ、魚をさばく包丁、はさみを入れる角度などは、顔を出さなくても手元だけで十分に伝わります。短い縦長の動画にしておけば、SNSにも、Googleマップのお店の情報にも、そのまま載せられます。どのSNSから始めるかはSNSの記事にまとめました。
外国語でも伝わる、技術の名前の付け方
次に、その技術を一言で言える名前にします。「12時間炊いた豚骨スープ」「職人が一貫ずつ握る寿司」「頭皮を押しほぐすヘッドスパ」のように、何をどれだけしているかが分かる言い方にしておくと、外国語に訳しても意味が崩れません。「こだわりの」「匠の」といった飾りの言葉だけでは、訳したときに何も残らなくなります。書き方は多言語メニューの記事も参考にしてください。
技術をメニューと値段に入れる書き方
最後に、その技術を受けられるメニューと値段を、はっきり書きます。ヘッドスパを付けたコース、握るところを目の前で見られるカウンター席、職人の説明つきの食べ比べなど、今あるメニューの組み合わせで作れるものも多いはずです。値段と所要時間、予約の方法まで書いておけば、来る前に「このお店で、これをしたい」と決めてもらえます。技術を体験のメニューにする考え方は、体験メニューの記事で詳しく書いています。
Pointお店の技術は、来る前の人に工程と名前と値段が見えたときに、はじめて選ばれる理由になります。
作り込まなくていいことと、外に頼むと早いこと

「日本らしさ」を出そうとして、店内を和風に飾り直したり、外国の方向けに別の料理を作ったりする必要はありません。外国の方が満足しているのは、日本の人がふだん食べている料理や、ふだん受けているサービスです。料理の由来を長い英文で書いても、読まれないことが多いので、工程の写真と短い説明があれば足ります。すべてのメニューに説明を付けようとせず、いちばん自信のある1〜2品や、1つの施術から始めます。
工程の撮影や、技術の名前を日本語で決めることは、お店の人がいちばんよく分かっています。一方で、その説明が外国語で自然に伝わるかの確認や、どの国の方に向けてどこに載せるかの判断は、外に頼むほうが早いことが多い部分です。どこに頼めばいいか迷うときは、依頼先の選び方の記事が参考になります。
よくある質問
Q. 小さなお店の技術でも、外国の方に価値として伝わりますか
伝わります。観光庁の調査では、いちばん満足した飲食にラーメンを選んだ人が19.7%いました。専門のお店が毎日出している料理が、それだけ満足されています。お店の規模よりも、工程や作り方が来る前に見えるかどうかで、伝わり方が変わります。
Q. 外国語が話せなくても、技術を説明できますか
できます。メニューやお店の情報に、技術の名前と一言の説明を外国語で書いておけば、会話が少なくても伝わります。工程の写真や短い動画があれば、言葉がなくても手間のかかり方は分かります。
Q. 技術を見せる動画は、プロに撮ってもらう必要がありますか
最初はスマートフォンで十分です。手元を明るい場所で撮り、手ぶれを抑えるだけでも伝わります。載せ始めて反応が分かってから、プロの撮影を考えても遅くありません。
まとめ
ラーメンや寿司、髪を切る技術のように、日本のお店が毎日している仕事には、インバウンドの方々にとって旅の目的になるだけの価値があります。ただ、工程と技術の名前と値段が見えるようになって、はじめてその価値は来る前の人に届きます。
ご相談を受けていると、迷うのは技術があるかどうかより、どれを見せるかのほうです。お店の人にとってはどの仕事も当たり前なので、外から見たときに何がいちばん伝わるのかを決めにくくなります。私たちは、お店の仕事を一緒に見せていただき、最初に見せる技術と、それを載せる場所を決めるところからお手伝いします。今のままで十分に伝わっているなら、手を加えなくていいとお伝えします。
お店の技術をインバウンドの方々に伝えたいときは、インバウンド集客のご相談からお問い合わせください。支援の内容はインバウンド集客支援のページにまとめています。
この記事の監修者
出典
- 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」(図表4-3・4-4・5-1・6-1・6-2を使用。全国籍・地域。2026年9月30日取得)
- 東京都産業労働局「多様な体験型観光推進事業補助金」(事業の趣旨と募集概要。2026年9月30日取得)
- 写真:Studio Stock



